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「ピクサー流 創造するちから―小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法」読了

ピクサー流 創造するちから―小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法
エド・キャットムル 著 エイミー・ワラス 著
ダイヤモンド社
売り上げランキング: 2,622

ピクサー社長のエド・キャットムルによる著書。ピクサーの映画は大体大ヒットしてるがその舞台裏が垣間見える本。スタッフの才能、想像性を活かすためにどうマネジメントしてきたかということが実際にピクサーで起こったことをベースに書かれている。

当たり前の話だがピクサーでも会社なので問題が色々ある。部門間の仲違いやそれが浮き彫りにならないこと、批評時に遠慮して意見が言いづらいなど、普通の会社でもよくあることなので意外と起こっていることは同じなんだなと思った。ただそこをマネージャーが常に目を光らせて問題視し、確実に対処して企業文化にまでしているところがピクサーたる所以だと思った。その部分が本当に面白かったので大体の人におすすめしたい。

イデアよりチームが大事

トイ・ストーリー2の話で監督を代えたら劇的によくなったと述べられている。いいアイデアを二流のチームに与えると台無しにされ、二流のアイデアを優秀なチームに与えたらそれを修正するかもっといいものを思いついてくれるとの教訓も書かれている(これだけ書くと監督を批判してるように見えるが、本ではなぜ監督が力不足になってしまったのかという点にも触れられている)。トイ・ストーリー2は素晴らしい映画になったがその過酷な製作過程で社員の大半が心身を壊したらしい。その経験からピクサーでは映画のニーズよりも社員のニーズを優先するようになった。各々のスタッフが全力を尽くすのは大事だが、マネジャーがそこに付け込んではいけないっていうのなかなかできないのかなと思った。

正直さと率直さ

ピクサーではいかに本音を語るかというのを重要視している。日常、コミュニケーションは正直でないといけないけど、相手を不快にしないように本音を押しとどめること多い。でも創造的に物事を運ぶなら意見を伝え合ったほうがいいのは明確で、リーンだったりプロトタイピングでサイクル回そうっていうの、率直なフィードバックがあって初めて成り立つと思う。ピクサーはそれを「ブレイントラスト」と企業文化として行ってる。
ブレイントラストは映画のドラフト等を流し、評価する場のこと。数カ月に一度行われるらしい。優秀なスタッフを一同に集めて、問題の発見と解決のために率直に話し合うように促す。率直に話すのはやはり難しいのでうまくいくときといかないときがあるらしいが、はまったときの威力は絶大らしくてピクサーではかなり重要視されてるのが伝わる。
ブレイントラストのメンバーは上層部だったり優秀な人ばかりらしいが権限はなく、監督は提案や助言に従う必要はないとしてるのすごい。普通、議事録書いてそれ対応しましたかってなりそうだけど、そうではないと。ブレイントラストが思いつく解決策は、監督やチームが思いつく解決策には及ばないって書かれていて、クリエイターに信頼と責任を持たせてるのがこの会社の文化らしい。

失敗と恐怖心

著者は失敗は必ずしも悪ではないし、新しいことを試みた当然の結果であり、それなくして独創性はないとまで言ってる。失敗の苦痛の現実と、その結果として得られる成長のメリット両方を認識出来れば、失敗のいい点と悪い点を分けて考えられる、という考え方好き。また、計画はもちろん大事だとした上で、入念すぎる計画をする人は失敗までに時間がかかって失敗したという感情に潰されやすいことや、時間かけたぶん愛着が出てしまって最も大事な方向転換ができなくなると書かれていて、その考え方もとてもいいなと思った。念入りに計画をしていても問題は避けられないものである。実際にこの本でもピクサーの失敗がかなり載っている。

他にも不確実性や変化の必要性など、あるあると思ってたことに対してどう身構えていくかの知見がすごい多いように感じた。映画は物語が成否を決めるので普通のモノづくりとまた異なる重圧がかかっていることもわかる。打率の高いピクサーといえどもその裏では尋常ではない産みの苦しみがあるとわかり、だからこそ面白い作品が出てくるんだと思った。また、著者は会社の拡大は創造性の阻害になると考えていてそれを防ぐためにどうすべきかという姿勢自体が素敵だった。
とにかくオススメの本です。